ファッションデザイナー、ピエール・カルダンさん(98)の初のドキュメンタリー映画「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」が10月に公開される。貴重な記録映像と親交のある人物の証言から、「モード界の革命児」の歩みをたどる。

「私の服は多くの女性に提供されるべきだ。金持ちの特権階級に限定してはならない」
「デザイナーに要求されるのは世の中を変えることだ」
映画では、こんなカルダンさんの言葉を織り交ぜつつ、その業績を紹介していく。
カルダンさんはイタリア生まれ。2歳の時にフランスへ移住し、10代で仕立て屋に弟子入りした。クリスチャン・ディオールらの元で働いた後、1950年に独立。自身の名を冠したブランドは今年、設立70周年を迎える。
常に時代の一歩先を行く。オートクチュール(高級注文服)全盛期の59年に、プレタポルテ(既製服)を発表。近未来的な「宇宙ルック」や体の線を拾わないシルエットなど、斬新なデザインのドレスを次々と提案した。
ビジネス感覚にも優れ、日本や中国が「ファッション後進国」と呼ばれていた時代から交流。業界で初めてライセンス契約を導入し、飛行機から、家具、タオルまで、約800の企画商品を手がける。日本人の松本弘子さんら東洋人や黒人のモデルをいち早く起用したダイバーシティー(多様性)の先駆けでもある。

映し出される大胆なカッティングとカラフルな配色のドレスは、今なお新鮮。中国・万里の長城で行われたショーの映像は壮観だ。58年以降、50回以上訪れている日本とのつながりも紹介。技術面で日本人デザイナーに大きな影響を与えていることなどを、森英恵さんや高田賢三さんが述懐する。

試写を見たファッション誌「モードェモード」編集長の山口八千代さんは「服の枠を超えて、生活全般をデザインするようになった最初のファッションデザイナーで、あらゆる物に、自身の美学を投影した。人並み外れた先見性と行動力を持っており、まれな存在であることを改めて認識した」と話す。
ファッションのみならず、暮らし方も働き方も変革期にある今、リスクを恐れず、常に新しさを追い求めてきたカルダンさんの生きざまから学べることは多そうだ。
映画は10月2日から、Bunkamuraル・シネマ(東京)、テアトル梅田(大阪)などで公開予定。
(読売新聞生活部 谷本陽子)
※写真はすべて (c)House of Cardin-The Ebersole Hughes Company
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