LVMHプライズに見るポストパンデミック時代のファッション

なぜこの服が着たいのか

Sindiso Khumalo 提供

「デザインとは問題解決である」と言われます。そして、ファッションもまた何らかの形で問題解決につながっています。では、新人デザイナーたちはどのような意識や創造力で社会とその問題に向き合っているのでしょう? 具体例を紹介しましょう。

僕も外部審査員として第1回から関わっているLVMHプライズという新人デザイナーのコンペティションがあります。スポンサーはLVMH社。数ある新人デザイナーのコンペティションの中でもグランプリの賞金金額は30万ユーロ(約3500万円)、選出後のフォロー等も含めて圧倒的スケールです。

LVMHプライズのパリの展示会で説明をするシンディソ・クマロさん

40歳以下でコレクションを2回以上発表しているという条件を満たせば、誰でもエントリー可能です。まず、専任のチームがエントリーした全員の中から20組を選びます。次に20組合同の展示会をパリで開催し、審査員との質疑応答後に投票が行われ、得票数の多い順に上位8組がセミ・ファイナルへと進みます。最終審査ではLVMHグループの各ブランドのデザイナーやクリエイティブ・ディレクターとの面接が行われ、合議でグランプリと特別賞が決定します。

一昨年のグランプリは日本のブランド「ダブレット」が、昨年は南アフリカのテベ・マググが受賞し、それぞれ翌年以降にパリで公式にプレゼンテーションを開催して世界の舞台へと進出しました。

ダブレットが選出された理由は作品のジェンダー・フリー性と卓越したユーモアから、テベ・マググは彼の出身地であるアフリカの伝統文化やプリント技法を取り入れ、また、全ての製造過程を記録したチップが服に着けられているというトレーサビリティーやエシカルな発想を評価された、と聞きます。二つの具体例は、まさに現代社会が求め、重要視している主題をファッション・クリエイションの中でアプローチし、具現化したと言えます。

僕が7年間、このプライズの外部審査員を引き受け続けている理由も、まさにそこにあります。スポンサーの今後の企業姿勢にも影響する「ソーシャルアウェアネス=社会性」を体感できるからです。

さて7回目となった今年、審査日は恒例のパリコレクション期間中の2日間だったのですが、外出禁止令などは出ていないものの新型コロナウイルスへの警戒が高まり始めていました。展示会自体は開催され、僕もデザイナー全員と面談はできたのですが、予定されていたパーティーはキャンセルされました。そして最終審査。例年であれば6月にパリのLVMH本部で行われる審査会自体が取りやめとなりました。

では、グランプリは誰に? 誰もが気になる結果は「全員でシェア」でした。つまり、グランプリの1組ではなく、8組で賞金の30万ユーロを分け合う、という解決をしたのです。内容を報告してきた主催者からのメールに、「ポジティブな決断に大賛成です。今は一人のヒーロー/ヒロインをたたえるときではなく、皆が協力し、シェアするときですね」と返信しました。そして特別賞も過去の受賞者で、その後、インディペンデントに活動している若手デザイナーたちに、これも分配されることになりました。

今回の「平等に分配」という結論は、審査員を集め合議するのが物理的に困難だったからですが、僕には「ポストパンデミックの時代にこそあるべき発想」と思えました。「時代は変わる」のです。

注目すべきデザイナー達を解説してみます。エマ・ショポヴァ&ラウラ・ロウェナはブルガリアと英国の2人組で、主にブルガリアで見つけたデッドストックの生地を使用したアップサイクリング服のコレクション。

シンディソ・クマロは南アフリカに拠点を置き、サスティナビリティーを基とした服を作り、また、奴隷解放のヒロインをミューズとして彼女しか語れない物語をコレクションで表現しています。

彼ら以外にもアップサイクリングをメインにしたプリヤ・アルワリアや、東京・巣鴨で入手した安価な生地から美しいドレスを作り上げるトモ・コイズミが話題でした。回を追うごとに選ばれるデザイナーたちと審査員の視点が、より社会性を帯びたものになってきていることを7年間で実感しました。

今、人類は全世界規模でウイルスという目に見えない敵と戦っています。そして、この戦いは「ウイルス以前」と「ウイルス以後」というように世界を変えるでしょう。

またウイルス禍は「不可視のものを可視化」した、とも言えます。ウイルス自体は目に見えませんが、その影響は思いもよらないジャンルや場所にまで及びます。見えにくかったものに気付かせるきっかけにもなっています。DVの危機下にある女性や子供、雇用や社会のシステムからこぼれ落ちている貧窮層、遠くはアマゾンの少数民族の消滅の危機まで……。これら全てに新型コロナウイルスが影響しているのです。貧富の差、偏った価値観、自国第一主義、経済優先主義やグローバリズムのゆがみ……。これらは20世紀に積み残した課題であり、今度こそ解決されなければならないもの。ファッションの世界においても、その存在意義や、生み出せる幸福のありかたについて、根底から問い直されています。

先ほど紹介したシンディソ・クマロは、今回のLVMHプライズの優勝候補でした。彼女は奴隷女性の人生やズールー族の物語をトワル・ド・ジュイの技法で表現します。トワル・ド・ジュイは18世紀フランスで生まれたコットンプリント生地で木版や銅版を用いて捺染なっせんされ、日本では西洋更紗さらさとも呼ばれます。彼女はメッセージをナマにぶつけるのではなく、美しいデザインによって一次元上の力で私たちにより深く届けます。これこそポストパンデミック時代のファッション・クリエイションだと思うのです。

(写真は、シンディソ・クマロさん提供)

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栗野宏文
栗野宏文(くりの・ひろふみ)
ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブ・ディレクション担当

 1953年生まれ。大学卒業後、ファッション小売業界で販売員、バイヤー、ブランド・ディレクターなどを経験し、1989年にユナイテッドアローズ創業に参画。2004年に英国王立美術学院から名誉フェローを授与される。LVMHプライズ外部審査員。11年からツイードラン・トウキョウの実行委員長を務める。この夏、過去20年間に書いたエッセーなどをもとにした新著を出版予定。消費の未来やファッションとは何かを考察しつつ、個人史的な要素も加わった内容になる。