新型コロナの影響受けたパリコレ、落ち着いた大人の服が充実

なぜこの服が着たいのか

ドリス・ヴァン・ノッテンのショー。ゲストの中にはマスクをつけた人もいた(2月26日、ロイター)

大手小町読者のみなさんこんにちは。連載2回目となります。前回、僕がクリエイティブ・ディレクションを構想する際に最も重要なのが、その時々の「社会潮流」だと申し上げました。

2020年春。現在の社会潮流として取り上げる最重要の話題は、言うまでもなく「新型コロナウイルス」です。中国での感染が報じられたのは今年の初めでしたが、今や、全世界を揺るがす地球規模の大問題となっています。ここでは、それが世界の何にどのような影響を与えるのか、我々は何を学ぶのか、消費生活やファッションがどう変化していくのか、といった点について考えます。

「世界の消費者」の凍結

まず、今回のウイルス禍で世界が痛感したのは、過度な中国依存でしょう。本来は共産主義国家である中国に、資本主義的なお金の流れや消費生活が広がり、「新富裕層」が台頭したのは近年です。彼らは「お金を使う楽しさ」を覚え、旅行の自由化などとともに「世界の消費者」となりました。彼らの旺盛な消費欲が、近年のラグジュアリービジネスを支えたわけです。いわゆるインバウンド消費を抜きに、現在の世界市場は買い支えられない状況になっていた。また、生産国としての中国のパーセンテージも巨大です。

しかし今、消費大国であり生産大国でもある国のパワーがいったん一旦凍結されています。その結果、「モノが売れない」「滞在客が来ない」「乗客がいない」という状況になっています。そして今回は、中国のみならず、それ以外の国からのツーリストも激減させています。この現象は、日本以上に観光立国であるイタリア、フランス、スペインにおいてネガティブなインパクトが大きいでしょう。

イタリアでの深刻な感染拡大の背景には、我々の想像以上に中国と濃い交流があり、依存度が高くなっていたことがあるとみられています。また、「なぜ、アフリカでも?」と思われる方が多いかもしれませんが、中国のアフリカ進出はすさまじいものがあります。アフリカの空路のハブとも言えるエチオピア・アディスアベバの空港で、最も多いのは中国人で、そのほとんどが労働者もしくはビジネスマンだといいます。僕は、中国人専用乗り換え案内を目の当たりにしました。

気持ちが高まるパリコレ

2月下旬から3月初めにかけて開かれたパリコレでは、そんな中国パワーが一挙に消えていました。ショーの観客席、デパートのブランド品売り場、高級街のブティックをにぎわせていた彼らが、全く不在でした。ショーの観客席は良い席が余ってしまい、今までは立ち見で参加していたアシスタントクラスの業界人も番号付きのシートで見られました。20年前のパリコレに戻ったかのようでした。

ロエベの2020-21秋冬コレクション=ロイター

そんな状況でも、コレクションの内容自体は充実したものが多く、気持ちが高まる良いシーズンでした。ウイルス禍の前から準備されたものですが、なぜか「時代の変革期」を予感するかのような、過剰なデザインや誇張がない、よりヒューマンで落ち着いた、大人向けの方向性となっていたことに、デザイナーという職業の皮膚感覚の鋭さや先見性を感じました。僕が見た中では、ドリス・ヴァン・ノッテン、ロエベ、サカイの一皮むけた成熟感とコム・デ・ギャルソンのピュアな造形が印象的でした。ウイルス禍があってもなくても、ファッションは前に進みつつあった……と言えるのではないでしょうか。

WHO(世界保健機構)が「パンデミック」(感染症の世界的大流行)を表明した新型コロナウイルスは、経済に大きな影を落とします。

消費の停滞、物流の停滞、旅行の減少、投資の回収不能、不良債権の多発、関連産業の倒産危機……。

世界の株式市場は約30年ぶりの大暴落を示しました。感染が終息に向かっても余波は激甚です。

新型コロナで変わる生活スタイル

まだ早いかもしれませんが、ポジティブな視点での「ポスト・パンデミック世界」も考えてみましょう。

消費の縮小は、お金と時間の使い方のリセットにつながります。多数の人との接触を避け、人混みを回避する施策は、リモートワークの常態化につながります。リモートワークは過剰な労働への見直しへとつながり、家族やパートナーと過ごす時間の重要性が体感されます。あるいは、時間的余裕は自己投資へと向かわせる可能性があります。自分の暮らす町との親和性が増し、コミュニティー意識や互助意識が醸成されるかもしれません。観光や旅行の喜びが、より深く実感されることでしょう。そして困難な時代は、自分よりも弱い立場の人たちについて思いを巡らす機会も生みます。そう考えることは自分の心的パニックの回避にもなるでしょう。

このように、21世紀以降の市民生活が良い方向へとリセットされる機会につながる可能性もあります。むしろ、ここまで来てしまったら、次は未来を考えるべきではないでしょうか? 

そして何よりも社会がネガティブな環境に陥っている時こそ、おしゃれをするべきなのです。こんな時期に洋服なんて……ではなく、こんな時だからこそおしゃれをし、胸を張って前を向いて歩きだすべきではないでしょうか? 

外出するかしないか、ということとは別の問題です。おしゃれは人間の尊厳と不可分であり、「自分」を支えてくれるものなのです。問題を解決しようとする自分に力を与えてくれるものなのです。だから僕は今、もっとおしゃれをしようと決意しています。

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栗野宏文
栗野宏文(くりの・ひろふみ)
ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブ・ディレクション担当

 1953年生まれ。大学卒業後、ファッション小売業界で販売員、バイヤー、ブランド・ディレクターなどを経験し、1989年にユナイテッドアローズ創業に参画。2004年に英国王立美術学院から名誉フェローを授与される。LVMHプライズ外部審査員。11年からツイードラン・トウキョウの実行委員長を務める。