行定勲のシネマノート 苦手なホラー映画を見る

マリ・クレール スタイル

花冠をかぶった女が悲痛な顔で泣き叫ぶ美しいポスター。それに誘われて見てしまった。私は子供の頃に見た(タイトルも忘れてしまったが)、宇宙から帰還してきた飛行士たちの顔がドロドロに溶けて、怪物になっていく悲劇をグロテスクに描いた映画を見て以来、ホラー映画が苦手だ。

私は普段から映画を見る前はなるべくその映画の情報を入れないようにしているのだが、この映画『ミッドサマー』がホラー映画だということを始まって数分で気づき、すぐに試写室を出ようかと思った。しかし、主人公のダニーを演じる女優フローレンス・ピューにひかれるものがあって、その場に留まったのだ。確かこの映画はポン・ジュノ監督が昨年見た映画のベスト10に選んでいたと記憶していた。

(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

物語は、スウェーデンの田舎町で90年に一度の夏至に行われる祝祭に訪れたアメリカの大学生5人が、白夜の太陽の下、恐怖のどん底に落とされていくというものだった。白夜、妖しい儀式、血と女王、極彩色の花飾り、白昼の晩餐(ばんさん)、透き通るような白い肌の女たちなどにそそられる。しかし、予想以上に何でこんな酷(むご)い描写を見させられなきゃならないのだという、目を背けてしまうような場面が次々と起こり、次第にその恐怖に身体が固まっていった。

白昼の明るい光景の中で起こる惨劇をトリップして瞳孔が開いたまま見ているような、経験のない世界観がスクリーン上に繰り広げられる。まるでセルゲイ・パラジャーノフ監督の映画のような、極彩色の奇怪な美しさをホラー映画に取り込んだ注目の俊英、アリ・アスター監督の演出に次第に魅せられていった。

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風習というのは根源的で性的で野蛮なものが多い。神に捧(ささ)げる命、その犠牲が次の生命に喜びを与えるなんていう考えは現代から考えるとナンセンスだが、いったんその概念を受け入れると、それはそれで心地よいものに思えてくる。その残酷さが当たり前になっていき、見ているうちに美しく思えてきて、そこに共感してしまう自分がいる。そんな思いにさせることこそ監督の狙いなのだろう。「やばい」とは、こういう映画のことを言うのだろうと思いながら最後まで見てしまった。

こういう映画は毛嫌いせず、早いうちに見てトラウマになるといい。これで懲りたら見なければいいのだから。しかし、私は次のアリ・アスターの映画をまた見てしまうのだろうなと思った。

(c)marie claire style/text: Isao Yukisada

【映画情報】

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ミッドサマー

家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる“90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった――。

監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ビョルン・アンドレセン
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar/
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TOHOシネマズ日比谷ほか 全国公開中

行定勲(ゆきさだ・いさお)
映画監督

1968年生まれ、熊本県出身。2000年『ひまわり』か゛、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』て゛第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』なドを製作。17年は震災後の熊本て゛撮影を敢行した『うつくしいひとサバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

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