行定勲のシネマノート 「ドッグマン」

マリ・クレール スタイル

(c)2018 Archimede srl - Le Pacte sas

「ゴモラ」や「リアリティー」など、カンヌ国際映画祭で2度の審査員特別グランプリを受賞したイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督。最新作『ドッグマン』は、ハラハラさせられ、まったく先が読めない映画だった。まず、主人公の男が何を考えているのか、まったくわからず、感情移入は皆無。男の行動原理が、まったく説明されることなくストーリーが進んでいくから、観客は次の展開を予想しながら彼の行く末をただ見守るしかない。しかし、予想を裏切られ続けるのは必至で、そこに私ははまってしまった。

主人公のマルチェロは、愛想はいいがろくでなしな男。イタリアの海辺の寂れた小さな町で犬のトリミングサロンを経営している。彼には別れた妻との間に可愛い娘がいる。どうしようもない父親だが、娘はマルチェロになついていて2人でスキューバダイビングに行くのを楽しみにしている。うだつの上がらなさそうな男だが、彼はドッグショーで入賞し、トリマーとしてはなかなか腕があるようだ。そんなマルチェロには、暴力にものを言わせている町の厄介者のシモーネという巨漢の友人がいる。悪事に巻き込もうとするシモーネの誘いを断れずに彼の尻拭いばかりしているマルチェロ。何とも不可解な関係だ。マルチェロはシモーネに危うい計画に誘われるが、嫌がりながらも結局は金に釣られて企みに乗ってしまう。その結果、マルチェロの人生が逸脱していくという不条理な、独自性の強い映画だった。

(c)2018 Archimede srl – Le Pacte sas

とにかくマルチェロが愚かでイライラさせられる。なぜ、自分の生活を害する者とわかっていても、それを排除できないのか理解できない。主人公がしがみついて生きる町の存在が不気味で、その集落に生きるしかない男のあわれが描かれる。

この映画の根底には、豊かな生活へのあこがれや唯一の希望である娘との絆が描かれている。しかし、それが美化されることなく、堅実なだけではいられない主人公の自堕落な本質も描かれ、そこにリアリティーを感じさせるところが見事だ。人間は割り切れるものではないという、その曖昧な感情と人間の愚かさを表現しているところにこの映画の匂いがある。

特筆すべきは、海沿いのゴーストタウンにも見えるようなロケーション。この不可解な人間関係や物語はこの町から発想されたのではないかと思えるほど独特な世界観を醸し出していた。園子温監督の「冷たい熱帯魚」を想起させるような閉塞へいそく的な世界。

映画は説明的にシーンを描き、観客に伝えたいテーマをわかってもらおうと表現してしまいがちだが、わからないことが多いと逆にその本質を理解しようと観客の方から引き込まれていくものだと思う。「ドッグマン」はまさにそういう映画で、最後の最後まで目を離せなくて面白かった。

(c)marie claire style/text: Isao Yukisada

【映画情報】

(c)2018 Archimede srl – Le Pacte sas

『ドッグマン』
犬と娘をこよなく愛する温厚な男マルチェロは、「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営し、仲間との食事やサッカーを楽しむ日々を送っている。一方で、暴力的な友人シモーネとの従属的な関係から抜け出せずにいた。シモーネによって仲間や娘の信頼を失ったマルチェロは、平穏な日常を取り戻すためある行動に出るが……。イタリア映画界の鬼才、マッテオ・ガローネ監督が描く衝撃の不条理ドラマ。

監督:マッテオ・ガローネ
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アダモ・ディオジーニ

公式サイト:http://dogman-movie.jp/
8月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー

行定勲(ゆきさだ・いさお)
映画監督

  1968年生まれ、熊本県出身。2000年『ひまわり』か゛、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』て゛第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本て゛撮影を敢行した『うつくしいひとサバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

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