22歳の若さでサンセバスチャン国際映画祭・最優秀新人監督賞に輝いた奥山大史監督の長編デビュー作「僕はイエス様が嫌い」は、新世代の映画の兆しを感じるとともに懐かしさを感じる作品だった。
東京から雪深い田舎町に転校してきた少年ユラ。通うことになった小学校はキリスト教の礼拝堂が併設されていて、聖書を読み、お祈りをすることが慣習になっていた。礼拝する同級生たちに戸惑いを感じていたユラの前に、ある日、小さなイエス様が現れる。そのイエス様はユラの小さな願いを叶えてくれる。そんなユラにカズマというサッカーが得意で聡明な友達ができる。一緒に流星群を見に行ったり、人生ゲームをしたり、カズマの別荘でクリスマスイヴを過ごしたりして2人の間は近づいていく。そんなユラの前に悲劇が起こる。

子供の頃、私にも忘れられない友達がいた。その友達は私にとって憧れの存在だった。誰よりも走るのが速く、給食を誰よりも多く食べ、クワガタやカブトムシ捕りがうまく、魚釣りの名人だった。彼と過ごした時間は私にとってかけがえのないものだった。子供の頃にあった記憶を不可思議で独特なユーモアのある物語として紡ぎ出したこの映画は、誰しもが忘れ難いものをすくい出す。
見終わって、ユラだけに見えた小さなイエス様は、何だったのだろうと考えている。かつて、私にもイエス様はいたのかもしれない。信じることへの純真が、かつての無垢な子供時代にはあった。信じれば救われる。しかし、願いが叶うばかりではなく、むしろ叶わないことの方が多いだろう。私たちは、その裏切られたような気持ちを知りながら大人になってきた。そう考えると、この映画のタイトルは的を射た素晴らしいタイトルだとわかる。こんなにも子供の頃の気持ちを表したタイトルはない。

スタンダードサイズ(1:1.33)で切り取られた構図は、最初は人の目の高さで撮られているが、神を信じなければならない出来事が少年に起こってからは俯瞰(ふかん)で撮られている。神の目線で撮られた絵に、どうにもできない少年の心情が映し出される。神の慈悲のない現実を見事に表現した映画だと思う。シンプルで正直な心を捉えた映像は、最後にあの懐かしい日の風景を思い出させてくれた。私たちは天から見つめられているのかもしれない。それを知らず、私たちは心に痛みを感じながら大人になっていくのだ。
(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada
【映画情報】
『僕はイエス様が嫌い』
公式HP:https://jesus-movie.com/
5月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国順次ロードショー。
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