ゴダールのミューズを演じた、新鋭女優ステイシー・マーティン

マリ・クレール スタイル

 新作を発表するたび、ショッキングな内容で話題騒然となるデンマークの監督ラース・フォン・トリアー。彼の2013年作「ニンフォマニアック」で、主人公ジョー(シャルロット・ゲンズブール)の15歳から31歳までを演じたのがステイシー・マーティンだ。当時22歳という若さで、セックス依存症の女性の性に目覚める思春期を克明かつ衝撃的に演じた。ほぼ無名の新人女優にしたら気絶するほど大胆なデビューだったというしかない。

 細身な体つきと大きな瞳が印象的であどけない顔つきのステイシーは、まるで少女のような印象を与える女性だ。「ニンフォマニアック」以後、ディストピア小説の映画化「ハイ・ライズ」や、寓話性の強い「五日物語 3つの王国と3人の女」「ゲティ家の身代金」など、個性的な映像作品への出演が続いたことを踏まえれば、芸術肌の女優なのだろうと察することができる。そして、最新作が「グッバイ・ゴダール!」となると、その推測は確信に変わった。

 ミシェル・アザナヴィシウス監督がメガホンをとるこの映画は、ヌーヴェル・ヴァーグの祖とされる映画監督ゴダールとその2人目の妻であるアンヌ・ヴィアゼムスキー(2017年10月他界)の蜜月をコメディ・タッチで描く。彼女の2冊の自伝をまとめ、脚本化した内容だ。

 「本を読んだとき、心の温まるエピソードが満載だったの。アンヌ本人に会うことは避け、彼女とゴダールの関係を自分なりに作り上げていった。それは危険なことだと思ったけれど、その価値はあったと思う」と完成作に満足げな様子だ。

 アンヌ・ヴィアゼムスキーがゴダールと出会ったのは1966年、19歳のとき。熱烈な恋に落ち、20歳になるや17歳年上の監督と結婚した。当時、大学で哲学を専攻していたアンヌはゴダールの「中国女」という映画に主演し、これは、67年の結婚式直後に公開された。アンヌがモーリアックというフランス文学界の巨匠の孫娘であることから、2人の結婚は今でいえば、ちょっとしたセレブ・ニュース的にとり上げられた。

 「正しい視点からゴダールを理解したかった。ゴダールを尊敬しているから。私にとってコメディ映画は初めてだったから、どうなるかは予想もつかなかった。自分にできるのだろうかという不安もあった。でも素晴らしい体験になったと思う。私自身、映画を観ながら泣いたり笑ったりするのが好きだし、これもそんな映画であってほしい」

(c)marie claire style/text: Yuko Takano / photo: WATARU YONEDA / make-up: Yoshi.T〈AVGVST

 カンヌ映画祭でのエピソードや、監督仲間や面識ある評論家たちとの関係、その他多くの興味深いエピソードがユーモアたっぷりに描かれ、68年という時代性が強調される。人種差別や男女不平等、ベトナム戦争など、世界中の若者が社会の抱える矛盾に異論を唱え、世界各国の都市で学生運動が活発化しデモ行進が多発した。パリもしかり。五月革命と呼ばれるデモ行進のシーンは、この映画の焦点の一つでもある。

 「私が演じるアンヌは、この映画のなかではとても若い。当時のフランス社会は大きく変化していて、特に女性の置かれている状況もめまぐるしく変化していた。そんな状況にアンヌは触発された。自分の気持ちが定まらず、様々な選択を迫られ、自身に問いかけ続ける彼女をどう演じようかと考えた。彼女だったらどうするだろうか、という自問自答を繰り返す作業だった」

 若く美しいアンヌはゴダールにとってミューズであり、彼女を失うことの不安と、監督としての理想と野望が葛藤し、ぶつかりあう。それが、彼を突飛な行動へと駆り立てる。自分に向けられる賛辞に戸惑い、評論家の言葉を気にし、ベルトルッチという大切な友人を無謀な討論で失い、毛沢東思想に盲目的に傾倒し……。

 彼の37歳という年齢に老いさえ感じ、大学生のアンヌの若さがまぶしい。神格的なゴダールの完璧でない人間性を描くあたりが、最高に楽しい。そして同時に、女優としての夢に目覚めるアンヌの自立の物語でもある。

 「アンヌはフェミニストのはしりだったと思う。本人はたぶん無意識だろうけれど。彼女は素晴らしい女優になり作家になった。そんな女性の勇気を奨励することが大切だわ。アーティストにとってミューズの存在というのは母親的であると感じる。彼の芸術を触発するという点で創造の源だから。けれど女性にとって代償は大きい。ミューズが芸術家であるパートナーを超えた例はまれ。アンヌはゴダールと離婚してから作家になった。2人の芸術家がカップルとしてやっていけるか? どちらか一人が犠牲になるしかないのか? それは大きな問題だと思う」

映画情報
『グッバイ・ゴダール!』
公式HP
東京・新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか絶賛上映中!

ステイシー・マーティン(Stacy Martin)
女優

 1991年、フランス・パリ生まれ。10代の頃にファッションモデルとしてキャリアをスタート。イギリスで演技を学んでいるときに、ラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック』のオーディションに参加し、スクリーンデビュー。この作品でデンマーク映画批評家協会賞の主演女優賞にノミネート。その後も『ハイ・ライズ』や、『ゲティ家の身代金』といった話題作に次々と出演するなど、駆け足でスターダムへ。「ミュウミュウ」の2014-15年秋冬コレクションや、同ブランド初のフレグランス「オー・ブルー」の広告塔にも起用され話題になった。

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