国内ファッションの動向を占う、2018―19年秋冬シーズンの「東京コレクション」は、よい意味でまとまりを欠きました。参加ブランドは、それぞれの持ち味を生かし、作り手が得意な表現手法やブランドの原点に根差した作品を提案。その多様性の中から「日本」「職人技」「丁寧」といったキーワードが浮かび上がりました。
mame kurogouchi(マメ)
ハンドクラフト(手仕事)のあたたかみや表現力を作品に生かす取り組みが広がっています。日本の職人や工場への敬意を大切にしている黒河内真衣子デザイナーの「mame kurogouchi(マメ)」は、日本の伝統的な民具や工芸を服にモダンに写し込みました。冠婚葬祭の包み紙にかける水引や、映画『君の名は。』でもキーモチーフになっていた組紐といった「結ぶ」文化のディテールを持ち込んでいます。
和のパッチワークとも呼べそうな「襤褸(ぼろ)」の風情もまとった、重層的なレイヤード(重ね着)も披露。西洋的なニットとは異なる、日本の伝統的な編み物の技法も生かして、手仕事感を帯びた現代的な「和洋折衷」の装いに仕上げていました。
HYKE(ハイク)
作り込んだデイリーウエアといった雰囲気の「ストリートクチュール」が世界的に勢いづいています。アウトドアやミリタリーのムードを宿した作風で知られる「HYKE(ハイク)」は軍装から着想を得つつ、エスプリの効いた着映えに整えました。
主役を担ったのは、ダッフルコートやボンバージャケットなどのアウター。ダッフルの目印的なトグルボタンは居場所や形を変えて、いたずらっぽい見栄えにアレンジ。あごを隠すネックウォーマーや過剰にふくらませたコートなどで、ミリタリーウエアの武骨さをやわらげ、ファニーな表情に様変わりさせています。朗らかな丸みを帯びたコクーン(まゆ)形のシルエットは性別の違いもぼかし、ジェンダーレスな着姿に導いていました。
support surface(サポートサーフェス)
カッティングの冴えで一目置かれる存在となっているのは、研壁宣男デザイナーの「support surface(サポートサーフェス)」。服の前後で見え具合が全く異なる「ハイブリッド仕立て」で、巧みな技巧を見せつけました。たとえば、正面から見るとフェイクファーが目に飛び込んでくるスカートは、背中側に回るとチェック柄になっていて、すれ違いざまに思わず振り返ってしまいそう。目立ちにくい細部のこしらえでも工夫を凝らし、コートをドレスライクに仕立てています。
微妙なさじ加減で布をつまみ、ドレープを生み出して、静かな上質感を帯びさせました。パターン起こしの技が問われるワンボタンのジャケットには作り手の自負がうかがえます。目先のトレンドを追わなくなった東コレの変化を物語るクリエーションでした。
Hanae Mori manuscrit(ハナエ モリ マニュスクリ)
オートクチュールに見られるような丁寧な作り込みが、「Hanae Mori manuscrit(ハナエ モリ マニュスクリ)」のランウェイを華やがせました。キーカラーに選ばれたのは、色味の深い赤。ワインレッドのドレスが繰り返し登場し、ロマンチックを歌い上げました。
左右や前後でアシンメトリー(不ぞろい)のドレスが立体的なシルエットを描いています。正面に深く切れ込んだスリット、身頃を横切るラッフルなどのディテールがスリリングなアクセントに。布の陰影を引き出すドレープやたるみがあちこちに施され、艶美なたたずまい。縦長の一枚布を、ストールのように片側の肩だけに掛けて、垂らした端をベルトで巻き留める演出も貴婦人のムードを醸し出していました。
matohu(まとふ)
日本の美意識をファッションに展開するシリーズ「日本の眼」を続けてきた「matohu(まとふ)」は、今回でそのシリーズを完結させました。2010年から続けてきた取り組みの締めくくりとなっただけに、ブランドの代名詞的なアウターの「長着」を軸に、お得意の縦落ちレイヤードを組み上げました。和の伝統的な植物染めを思わせる、イエローやグリーンなどの色を淡い色味で響き合わせています。濃淡の微妙なグラデーションがやわらかい印象を寄り添わせました。ケープやブルゾンなど、「洋」のアイテムを取り入れて、東西・古今のクロスオーバーを試みています。日本古来の技法や素材を注ぎ込んで、文化が融け合った「和洋服」にまとめ上げていました。
ファッション業界を取り巻く情勢がますます厳しくなる中、東コレ参加の作り手はブランドの存在意義やアピールポイントをあらためて強く打ち出す必要に迫られているとも言えます。今回の東コレが表現の面で厚みを増したのは、そんな理由が背景にあるのかもしれません。それぞれに異なる美意識やキャリアが映し出された東コレは、一段と成熟を深めたように見えました。