若い頃の映画『昼顔』や『哀しみのトリスターナ』のカトリーヌ・ドヌーヴは、どこかミステリアスで、脆弱にみえたものだが、今春、東京でのフランス映画祭に団長として来日した彼女は、女王然とした品格を漂わせていた。
女優だった姉フランソワーズ・ドルレアックは、25歳で事故死してしまったが、母で女優のレネ・シモントは、106歳の現在も健在だというから、どうやら長寿の家系らしい。
「自分が出ていた過去の映画なんか観ないことにしているの。そんなことより、先のことを考えた方がいいから」
74歳の現在、彼女もまだ意気軒昂のようだ。肌艶もよく、ふっくらとしていて、大輪の花のような美貌は衰えていないことに驚かされる。
「若い頃はね、私は人形にすぎなかったの」
東京で開催されたフランス映画祭に出品された、彼女の出演作品『ルージュの手紙』についてきいてみた。
「撮影に入る前は、こうしてみたい、といった考えがあったけど、自然にふたりの女性が距離を縮めていく様が、脚本の中で巧みに描かれていたので、その流れのままにすることにしたの」
――昔愛した男性の娘と再会する女性の心境を、どう思われましたか?
「相手役の助産師は、現実にとらわれていて、それまで真面目に生きてきたけど、私の役は子供を産まず、身勝手で、華やかに生きてきた、そんな女性だったわ。そうね、私からはほど遠い役よ」
――あなたとはそんなに違いましたか?
「違うといっても、だからといって私はこれまで“ありんこ”のように生きてきた訳ではないわよ」
そう言うと豪快に笑い出した。
――年老いることについて。
「そうね。考えてみると、老いるのって、とても退屈なことだと思う。だから私はいつも別のことを考えるようにしているの」
――若い頃の演技とは異なるとお考えですか?
「若い頃はね、私は人形にすぎなかったの。大人しくして、ただじっとしていただけ。監督に説明された他人の人生を、自分の中にそのまま取り入れて、それを表現していた。それだけだった」
「後ずさりする草なんかないわ。いつも少しずつ伸びているのよ」
――『ルージュの手紙』のような家族の絆について、どうお考えですか?
「私は娘のキアラ(マストロヤンニ)にも始終会っているし、ひとりで暮らしていても、家族との関係は普通に良好だと思っているわ。それ以上でも、以下でもない」
それにしても最近の彼女の活躍ぶりには、目覚ましいものがある。『ルージュの手紙』の次も新作が控えていて、すでに完成している『Bonne Pomme』では、『終電車』で名コンビだった名優ジェラール・ドパルデューとの久々の顔合わせでフレンチ・コメディーを演じ、口は悪いが魅力ある女性を演じている。

27歳の美男のラップミュージシャン、ネクフーと共演した『Tout nous separe』では、大女優との共演に怯えていた映画初出演のネクフーと、和気あいあいの撮影現場だったそうだ。
「キアラとの母娘共演の映画の企画もあるのよ。それがとても楽しみなの」
過去の話はしたくない、というカトリーヌは、こうして次から次に今後の作品について話し続ける。
そうした話をする時のカトリーヌは笑いが込み上げてくるようで、表情はとても70代の女性とは思えない。彼女の若さの秘訣は一体どこからきているのか。
「もともと私は植物が大好きなの。一本の草をみつめているだけでも、心穏やかになれるの。すっと伸びた茎や、尖った葉先をみているだけでも、自然界の美しさに見とれてしまう。後ずさりする草なんかないわ。いつも少しずつ伸びているのよ。素晴らしいことだと思わない? トレーニングや若返りのためには、なにもしていないけど、私は植物が大好きだし、とても大切にしている」
確かにパリで園芸博覧会がある時は、よく彼女の姿をみかけた。そうしたプライベートタイムを充分に活用して、ストレスを発散しているから、無理のない自分の道を見いだすことができるのだろうか。
年を取ってくると、丸くなる人もいるけれど、カトリーヌの場合は一切その気配はないようだ。その方が彼女には相応しい。だが柴犬の愛犬ジャックといる時だけは、すっかり甘い顔をするようだ。
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