伝統と力強さが宿る服 ディオール初の女性デザイナーが見た日本 

キウリさんが日本をイメージしてデザインしたオートクチュールのドレス(C)Ko-Ta Shouji

 今年70周年を迎えた「クリスチャン・ディオール」。2017年春夏シーズンからブランド創業以来初の女性デザイナーに就任したのが、マリア・グラツィア・キウリさんです。働く女性であり、母でもある彼女は、老舗ブランドに新風を吹き込みました。来日した彼女に仕事の魅力や家庭との両立を聞きました。

マリアさんが東京滞在中に撮影した4枚の写真

 「ギンザシックス」に旗艦店「ハウス オブ ディオール 銀座」がオープンしたのにあわせて、オートクチュールのショーを開いたキウリさん。今回の来日はほとんど自由時間がなかったというキウリさんですが、日本滞在中に撮影した写真を見せてくれました。ショーの前日、都内のホテルで、モデルのキャスティングやフィッティングをしている合間にインタビューをしました。

2017年の春夏コレクション

––––9月にパリで発表したデビューコレクションでは、「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS.(私たちはフェミニストになるべきだ)」と書いたメッセージTシャツなどが話題を呼びました。どんな気持ちでデザインしたのですか?

ギンザシックスでのショーの最後にあいさつするキウリさん

  ディオールの「女性らしさ」は、創始者のムッシュ・ディオールの時代と今とでは異なります。今は、女性が男性と同じように活躍し、発言する機会がある。初の女性デザイナーになったからには、繊細な面を持ちながら、力強く生きる現実の女性の姿をコレクションに反映させたいと思いました。かつての女性は周りの目を気にして服を選んでいたかもしれない。今は、女性がそれぞれの個性を生かして装う時代。女性自身が身に着けたくなるファッションを提案していきたいですね。

––––デザイナーの仕事と家庭の両立は大変なのでは?

  娘は20歳、息子は23歳になりました。子どもが小さかったころは、ベビーシッターを雇い、夫にも助けてもらった。彼は私の仕事を理解し、応援してくれました。

 以前にも仕事と家庭のバランスについて取材を受け、息子に尋ねたことがあるのですが、「バランスは悪かったと言えばいいじゃない」と冗談めかして言われてしまいました。良い母親でいようとベストは尽くしてきましたが、両立は簡単ではなかったですね。 

 すべての女性に言えることですが、プロフェッショナルな仕事と家庭を両立するのは大変で、大切なのは家庭でも、仕事でも、自分がハッピーでいるということ。ハッピーでないと何事も成し遂げることはできないというのが私の実感です。

––––世界を飛び回っていると、家族と一緒の時間が少なくなるのでは?

 息子と夫はローマ、娘はロンドン、私はパリ在住。離れて住んでいますが、頻繁に行き来するようにしています。

 娘はファッションが大好きで、私に若者世代の好みを知るヒントをくれます。「新しい服はまだ? はやく新しい服が見たい!」と毎日のように催促してくるので、私の創作の原動力になっています。今回の来日にも同行していて、日本の友達と出かけて、髪形を日本のマンガに出てくる女の子風にしてきました。息子はウェブの世界に興味があって、デジタル世代がどんな方法で情報を得ているのかなどを教えてくれます。

––––日本の印象は?

  日本は伝統を大切にしながら、近代的な面も持っているのが魅力だと思います。大好きな国で7、8回は来ています。美術館を訪れるのが好きで、昨年は東京で開かれていた三宅一生さんの展覧会に行きました。表参道の都会的な雰囲気も好きだし、京都も好き。日本に親近感も感じています。なぜなら私も、ディオールの伝統を大切にしながら、新しいものを取り入れていきたいと考えているからです。

日本をイメージして作ったオートクチュールのドレス

  その言葉通り、インタビューの部屋には、歌川広重の浮世絵や金沢・兼六園の写真などが貼られてありました。今回のショーを着想するもとになった写真で、1月にパリで発表した作品に加え、日本のために新しく作った9点もギンザシックスでのショーで披露したのです。日本の花見を思わせるドレスや、花に舞う鳥のモチーフが描かれたジャケットなどがあり、フランスの伝統に日本の和が融合した美しさに歓声が沸きました。

ピエール・エルメがプロデュースしたカフェ。ホームコレクションの食器が使われている

 ギンザシックスにオープンした旗艦店では、桜をモチーフにした商品や日本初のホームコレクションが並ぶほか、ブランドの食器でオリジナルメニューを提供するカフェも初出店しています。

(聞き手:読売新聞生活部・谷本陽子)

マリア・グラツィア・キウリ
クリスチャン・ディオール アーティスティックディレクター

 1964年、ローマで、ドレスメーカーの娘として生まれた。10代になると地元のフリーマーケットに通いビンテージの服を探すようになり、ローマのヨーロッパ・デザイン学院で学ぶ。イタリアのブランド「フェンディ」でバッグのデザインなどを担当し、「ヴァレンティノ」の共同デザイナーを務めた。2016年7月、オートクチュール、プレタポルテ、ジュエリーコレクションを持つクリスチャン・ディオールのアーティスティックディレクターに就任。

クリスチャン・ディオール公式サイト