2017―18年秋冬ニューヨークコレクションリポート(前編)~「NYらしさ=多様性」を追求

宮田理江のモード日和

 2017-18年秋冬シーズン向けのニューヨーク・ファッションウィーク(2月9~16日)は、トランプ政権が誕生してから初めての本格ファッションウィークとなりました。

 「アメリカ第一主義」を掲げる大統領に対し、ダイバーシティー(多様性)を重んじるNYのモード界は、それぞれのブランドらしい表現で、NYらしさを一段と強調して見せたようです。前編では、ダイバーシティーを印象づけていた6ブランドに焦点を当てます。

LACOSTE(ラコステ)

 もともとフランスのブランドである「LACOSTE(ラコステ)」は、実はパリではなくNYでの新作発表を続けています。NYコレクションと聞くと、米国ブランドだけが集まっていると思われがちですが、決してそうではなく、欧州やアジア、中南米などからの参加も珍しくありません。さまざまな地域から集まったクリエイターが、それぞれのルーツや経歴を作品に落とし込んでいるのもNYモードの魅力です。

 「ラコステ」のクリエイティブディレクターを務めるフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ氏はポルトガルで生まれ、英国で学んだ人物。父がパイロットだったバティスタ氏は今回、「宇宙旅行」を思わせる装いを打ち出しました。オーバーサイズの服はまばゆいメタリックの彩りにあふれ、光沢を帯びたベルベットも未来的なムードを生んでいます。

 米国で1990年代に盛り上がった「グランジロック」をテーマに選び、シンボル的な存在のロックバンド「ニルヴァーナ」のボーカル、カート・コバーンを連想させるチェック柄の服も披露。外国人から見た米国文化という、ひねった多様性を形にして見せました。

LACOSTE(ラコステ)(ブランド提供)(c)Yannis Vlamos

TADASHI SHOJI(タダシ ショージ)

 日本人デザイナーの「TADASHI SHOJI(タダシ ショージ)」もNYの常連ブランドです。仙台出身のデザイナーは1970年代に米国へ渡り、そのまま根を下ろしました。

 「着るだけでスタイルがよく見える」といわれる、流れ落ちるようなシルエットのドレスが有名ですが、今回はパンツスーツも提案。女性の装いが一様ではないことを示しています。前回は日本的な柄や仕立てを打ち出しましたが、今シーズンは大輪のバラ刺しゅうや、りりしいピンストライプ、ファーコートのピンクなどで、1960~70年代のナイトクラブをイメージしたという、ロックでグラマラスな装いに(いざな)いました。ベルベットやメタリックな素材があでやかな雰囲気です。

 近頃はロック音楽に代表される米国のカウンターカルチャーが、ファッションの重要テーマになりつつあります。薄く透けるレースを合わせ、重厚でつやめきのある生地との質感の違いを際立たせました。NYを発表の場に選んでいますが、ブランドの本拠地は西海岸のカリフォルニア州。ハリウッドのレッドカーペットでもおなじみです。

TADASHI SHOJI(タダシ ショージ)(ブランド提供)

Desigual(デシグアル)

 欧州からはスペインの「Desigual(デシグアル)」もNYに参加しています。もともと大胆な色使いで人気の高いブランドですが、今回はさらにカルチャーミックスの度合いを深めました。

 「反グローバル」のスローガンを軽やかに乗り越えるかのように、英国伝統のタータンチェック、カリフォルニアヒッピーを象徴する花柄、アフリカンなアニマルプリントなどをコラージュ風にミックス。国籍や立場にとらわれない発想の着こなしを提案しました。赤をキーカラーに据え、そこに緑や青を交わらせることでポジティブなムードを醸し出しています。

 おとなしくそろえるのではなく、あえてなじませにくいような色やテイストをぶつかり合わせてあり、“意志の強さ”が伝わりました。コートの着丈を長く、スカートは短くして、裾の長短でリズムを演出。60~80年代のサブカルチャーを下味に、マニッシュとフェミニン、過去と未来を交差させ、深みのあるコレクションでした。

Desigual(デシグアル)(ブランド提供)

ZADIG & VOLTAIRE(ザディグ エ ヴォルテール)

 ブランド設立20周年を迎えるパリの「ZADIG & VOLTAIRE(ザディグ エ ヴォルテール)」は、今回がNY初参加となります。最近多くなってきた、メンズとウィメンズの両方を同じランウェイで発表する手法を選び、ジェンダーの垣根を意識させない演出や、姉と弟のモデル共演などでも話題を呼びました。

 工夫が感じられたのは、異なるテイストや質感をねじり合わせるようなレイヤード(重ね着)の組み立て。たとえばスリップドレスとパンツを重ねたり、ジャケットの上からニットベストを重ねたりと、目新しいスタイリングを試しています。

 軸に据えたテイストはロック、ミリタリー、そしてランジェリー。レザーのライダースジャケットや、シルク系のパンツなど、風合いの違う服を組み合わせています。紳士服らしいテーラードジャケットの上からスカジャン風のブルゾンをかぶせるなど、意外なコーディネートも絶妙。ピンストライプ柄のジャケットに黄色いニット帽を合わせたり、ロック風の服に女性らしいピンヒールを添えたり、複数のムードを見事に同居させました。

ZADIG&VOLTAIRE(ザディグ エ ヴォルテール)(ブランド提供)

J.Crew(ジェイクルー)

 モデルのキャスティングでもダイバーシティーを押し出していたのは、日本でも人気の「J.Crew(ジェイクルー)」。プロのモデルではなく、写真家やダンサー、ヨガ講師、自社社員らを起用して、リアルさを出しています。

 ウィメンズ34体、メンズ28体をプレゼンテーション(展示会)形式で発表。多彩なモデルの顔ぶれがNYらしさを表現していました。ジーンズからタキシードまで幅広く提案された内容とも、とてもマッチしています。

 コレクションは、ラガーシャツ(ラグビーシャツ)などブランドを代表するアイテムを現代的にアレンジしています。カムフラージュ(迷彩)柄のパンツにベルベットのジャケット、足元はハイヒールといった、入り組んだミックスコーディネートや、厚手のニットセーターと透けるチュールスカート、正統派風のタキシードとワイドパンツオールインワンといった、斬新なクロスオーバーも試しています。「多様すぎる」と見えるほどのバリエーションの豊かさが、現代女性のマルチな暮らしぶりを映し出していました。

J.Crew(ジェイクルー)(ブランド提供)

MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)

 ファッションショーの見せ方にもブランドごとの立ち位置の違いが表れます。ダウンアウターに強い「MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)」は、雪山でのリゾートを舞台として設定。ケープ風のアウターをまとった男女のペアが名曲『美しく青きドナウ』のオーケストラ演奏をバックに、優雅なワルツを踊りました。バレンタインデーにふさわしいロマンティックな演出です。

 デザインが大事なのは当たり前ですが、雪山での服には動きやすさも求められます。ダイナミックでなめらかなダンスは、ゲレンデでの激しい動きも受け止める機能性を証明していました。

 グランピング人気もあって、アウトドア向けのファッションは年々おしゃれ度が上がってきています。今回は英国調の千鳥格子やグレンチェックを取り入れて、街中でも着やすい、スポーティーすぎない装いに仕上げています。コーデュロイやベルベット、ファーなどのつややかな素材をあしらって、ありきたりのスキールックとは別格のゴージャス感をもたらしました。日本製のウールも使っているそうです。

 ジャケットの上からベルトを巻いて、ボリュームにめりはりを付ける小技も利いています。新アイテムの披露にとどまらず、過ごし方の提案にも踏み込んでおり、ショー構成の熟成ぶりがうかがえました。「NYらしさ」を見つめ直す

 もともとNYのデザイナーには、米国以外にルーツを持つ人が珍しくありません。世界有数の移民都市であるNYを地元とすることもあって、カルチャーミックスはNYモードの特質とされてきました。

 反グローバル主義を掲げたリーダーの出現は、クリエイターたちがあらためて各ブランドの成り立ちや「NYらしさ」の本質を見つめ直すきっかけともなったように見えました。

MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)(ブランド提供)
MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)(ブランド提供)

 

宮田理江
宮田理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 ファッションブランドの販売員としてキャリアを積んだ後、バイヤーやプレスも経験してジャーナリストへ。海外コレクションのリポートや次シーズンのトレンド予測、着こなしのアドバイスといった原稿執筆のほか、セミナー講演なども手掛けている。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)など。

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