コピーライター坂本和加さん、迷ったら沈思黙考「心が楽しいか?」自らに問う

OTEKOMACHIで連載している「お悩み相談」の回答者に、コピーライターの坂本和加さんが新たに加わります。「カラダに、ピース。」(カルピス)、「行くぜ、東北。」(JR東日本)などのキャッチコピーをはじめ、多くの企業の商品やキャンペーンに携わっています。プライベートでは2人の娘の母親でもある坂本さん。どんな言葉で悩みに寄り添うのか、意気込みを聞きました。

――コピーライターになるのは、どのような経緯があったのでしょうか。

私は「就職氷河期」と呼ばれる世代で、新卒で人気の大手企業への就職はとても困難でした。言葉や文章を書くような仕事にあこがれていましたが、希望の会社に入るのは、とうてい無理な話でした。結局、内定をもらえた食肉を扱う貿易会社に入社しましたが、女性社員は結婚したら退職するのが当たり前という雰囲気の職場でしたから、「ここに長くはいないだろう」と予感しました。

2年足らずで退職すると、転職先を探しに行ったハローワークで、コピーライターの求人を見つけました。応募した小さな編集プロダクションにあっさり採用が決まり、念願のコピーライターの肩書きを手に入れました。といっても、実際には、小さな冊子にちょっと記事を書いたり、パンフレットに掲載する商品説明をまとめたりする仕事でした。

その後も、PR会社や広告制作会社を転々としました。ところが、いざ、キャッチコピーを任されても、未経験ですから、一つも思い浮かばないまま朝を迎えてしまうなんてことも。さすがにこれはまずいと思って、コピーライターの講習を受けることにしたんです。そこで、講師だったコピーライターの一倉宏さんとの出会いがあり、29歳で一倉広告制作所でお世話になることになりました。 転職ばかりの20代 でした。

――キャリアを積んでいくのは大変だったのでは?

コピーライターの登竜門と言われるTCC(東京コピーライターズクラブ)の新人賞を、30歳までに取ることを目標にしていましたが、実際に受賞したのは32歳でした。

さまざまなコンテストで受賞することがコピーライターの実績の一つという考えもありますが、私自身は、何よりも過去の仕事が次の仕事へつながると思っています。テレビCMや広告などで商品やブランドのイメージを伝えるキャッチコピーは、次から次へと新しいものが求められます。だから、ほとんどのコピーが知らぬ間に消費期限を迎え、記憶にとどまらないのが一般的です。

でも、私がこれまで仕事をした中に、同じキャッチコピーを長年にわたって使ってくださったクライアントがいます。それは、ちょっとした奇跡だと思っていますが、そのおかげで、私に仕事を依頼していただいたことも少なくありません。

コピーライターの坂本和加さん。大手小町のお悩みアドバイザーに加入
コピーライターの坂本和加さん「大好きな着物の普及にも取り組んでいます」(東京都港区のコトリ社で)

――坂本さんのキャッチコピーは、どれも前向きな印象を受けます。

見た人が、どう思うだろうかということを常に考えています。そして、このキャッチコピーを見て、傷つく人はいないだろうか、気に触って怒る人はいないだろうか、ということにも思いを巡らせます。

コピーライティングは、相手の立場になって考え、相手を思いやることを自然にできるようになることです。この技術を身に付けると、社会や自分の生き方をポジティブな視点で見られるようになります。

「誰かの役に立ちたい」、それをキャッチコピーでやろうとすれば、言葉は励ましや幸せを伝える手段にしかなり得ないのではないでしょうか。

――2人の娘を育てる母親でもあります。

38歳、39歳で続けて出産しました。長女は出産して5か月後、次女のときは6か月後に仕事に復帰しました。コピーライターのキャリアが15年以上になり、仕事が楽しくて、早く戻りたいと思っていました。

仕事との両立はしんどかったし、子育ては何もかもが初めての経験。「なんで?なんで?」と自問することばかり。それでも、復職して1人で考える時間が増えると、子育ての悩みや疑問の一つひとつに、「あっ、そうだったんだ」「こうすればいいかも」と気づけるようになりました。

子どもたちのめざましい成長が、その時々の苦労や戸惑いをあっさりとアップデートしてくれるので救われています。 

――「お悩み相談」には、子育て、恋愛、夫婦、仕事などさまざまな悩みが寄せられます。

だれかと会ったとき、「どんな顔か」「どんなカバンを持っているか」といったことばかり気にする人がいます。葉っぱや枝を見てもいいけれど、大切なのは、それがどんな木で、どんな森に生えているかだと思います。どうにも、ふに落ちないということがあっても、物事の本質をとらえようと普段から心がけていると、「あっ!」と合点のいく瞬間があります。

「こうじゃなきゃいけない」という正解があるとは思いませんが、もし一つあるとすれば、「心が楽しいか」ということを考えるようにしています。仕事でも恋愛でも、自分の心が楽しめていないなら、ちょっと距離を置いたほうがいいかもしれません。与えられた場所で全身全霊を傾け、それでもうまくいかなかったら、「それは、あなたのやることじゃなかった」と切り替えてとアドバイスします。

(聞き手・読売新聞メディア局 鈴木幸大)

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坂本和加
坂本和加(さかもと・わか)
コピーライター

1974年、宇都宮市出身。コピーライターの一倉宏氏に師事し2016年独立。合同会社コトリ社代表。代表作に「カラダに、ピース。」「健康にアイデアを」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」など。作詞「いっこにこだっこ」(Eテレいないいないばあっ!番組内)。著書に『あしたは80%晴れでしょう』(リトルモア)など。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。

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